あーと屋のほぼ大阪クラシック演奏会気まま日記

2016年07月

2016715日 関西フィルハーモニー管弦楽団 第276回定期演奏会

 


大阪ザ・シンフォニーホール

1D列中央

 


ワーグナー :楽劇『トリスタンとイゾルデ』第3

 


 


指揮                              飯森 泰次郎

 


トリスタン                      :二塚 直樹

イゾルデ                          :畑田 弘美

マルケ王                          :片桐 直樹

ブランゲーネ                  :福原 寿美枝

クルヴェナール                            :荻原 寛明

牧童                                  :谷 浩一郎

 


歌手の息遣いをまじかに体験したくて、普段オーケストラコンサートでは選択しない、指揮台真正面の舞台から4列目を購入。左右舞台袖の字幕スーパーに目をやると首が捻挫してしまいそうな席位置ではありますが、歌詞に目を奪われずに音楽に集中できる最良席です。楽劇の一幕上演(昨年の定期は“ジークフリート第3幕”)を定期のプログラムに乗せる関西フィルですが、オーケストラの安定感は私が聴き始めて最も安定していました。日頃212型のオケが楽劇をやるのはそもそも無理が多く、ちっとも面白くないのですが、トリスタンの第3幕なら無理なくこなせた、というところでしょうか。

 


トリスタン役の二塚直樹さんが素晴らしかった。個人的にはもう少し伸びと深みを伴った声質を望みたい役柄ではあるけど、憧憬・渇望・希望・絶望とさまざまな感情の変化の末に死に至る様は、これぞプロフェショナルなパフォーマンスで、D列中央を選択した価値ありです。一方、イゾルデ役は、特に“愛の死”では歌い出しからオケを無視して自由に歌っているようなところがあり“楽劇”ではなくしてしまったような感がしたのが残念。

 


なお音楽の最後、トリスタン和音がついに解決してTrpD#に導かれて長和音が響きわたり、そして静かに消えゆく果ての静寂こそこの曲の最大の価値であるのに、まだホール全体がこの偉大な作品の余韻に浸っているところで、それをぶち壊す不遜極まるフライング“ブラボー”を叫んだ輩がいらっしゃった。(“輩”にいらっしゃった、との敬語は不要か)。このオーケストラには演奏会の一曲目だろうとなんだろうと、兎に角、曲が終わらぬうちにブラボーを叫ぶ方がいらっしゃるのが、実に残念。

 


201674日 新日本フィルハーモニー マーラー交響曲第8番『一千人の交響曲』

560回定期演奏会サントリーホールシリーズ

 


サントリーホール

一階18

 


マーラー:交響曲第8番『一千人の交響曲』

 


指揮                            : ダニエル・ハーディング

ソプラノ1 罪深き女             : エミリー・マギー

ソプラノ2 懺悔する女           : ユリアーネ・バンゼ

ソプラノ 栄光の聖母            : 市原 愛

アルト1 サマリアの女          : 加納 悦子

アルト2 エジプトのマリア       : 中島 郁子

テノール マリア崇敬の博士      : サイモン・オニール

バリトン 法悦の教父            : ミヒャエル・ナジ

バス 瞑想する教父              : シェンヤン

栗友会合唱団

東京少年少女合唱隊

 


生演奏に接する機会などまずない地方在住でありながら、この“一千人の交響曲”を偏愛しています。贅沢にも神秘の合唱のみが2枚目LPB面にカッティングされた盤面の光沢の美しさに魅了されたショルティ・シカゴ響の英デッカ録音のロンドンレーベルのLPなど、それこそ擦り切れるまで繰り返し聴いたものです。学生時代に一度、上野文化会館で日フィルの演奏を聴いた記憶がありますが、今やネット検索恐るべしですね。ある方の“マーラー/交響曲第8番 国内演奏記録”なるサイトを通じて容易にその詳細を調べることができました。どうやら私が聴いたのは1981923日の日本フィルハーモニー交響楽団創立25周年記念特別演奏会だったようです。

 


さて、この日の演奏。もう冒頭オルガンからノックアウトです。ザ・シンフォニーホールのちゃっちいオルガンなど、比較にならない。“あぁ、今サントリーホールで一千人を聴いている!”と身震いしてしまいます。第1部の巨大な終和音の響きのすさまじいこと。例えば“復活”にしても“合唱”にしても、そしてこの“一千人”の第2部の最後にしても、合唱が歌い上げた後オーケストラ演奏のコーダが続くため、エンディングは意外とダイナミックレンジMaxにならないものですが、この曲第1部は強烈です。Pブロック通路部分まで埋めたざっと250人ほどの合唱、バンダを加えたフルオーケストラ、そしてオルガンが最大音量で終和音を轟かせ、それがまったく飽和することなく純音楽的にホール空間に響きわたり、そして数秒をかけて減衰していくさまは本当に奇跡的な体験です。

 


ハーディングの指揮は、全体にインテンポであっさりとしており、第1部では成功していたけど、第2部は特に前半において実に自然に旋律を歌わせていたものの、神秘性を背後に押しやってしまったような曲の運びで少々不完全燃焼気味。特に法悦の教父のソロの後、一度静かに音楽が落ち着いていくところ、少々煩すぎるピッコロソロの後は速めのテンポ運びで神秘の合唱を迎えてしまう。バンダが加わった後もあまりテンポを緩めることなくいささかあっけなく終わった。ちなみにバンダはPブロック下手上段に配置されていたけど、バンダが演奏開始しても一階席18列から聴いているとステージ正面のブラスの音量が増しただけで、視覚的にも音響的にも面白味半減ですね。やはり、バンダはホール後方から鳴らせてほしい。


親日フィル_一千人


2016630日 読売日本交響楽団 第14回大阪定期演奏会 

 


フェスティバルホール

2階 1列目 定期会員席

 


リスト:ピアノ協奏曲第2

  ――アンコール  リスト:超絶技巧練習曲第5番 鬼火

マーラー:交響曲第5番 

 


 指 揮          シルヴァン・カンブルラン

ピアノ                  :小菅 優

 


個人的に5番のシンフォニーはマーラーの全作品のなかで最も苦手です。とくに今日の演奏のように厭世観や悲劇性から一歩距離を置いた演奏では、曲の中途半端な構成力の甘さを意識してしまい、どうにも面白くありません。淡泊な解釈の4楽章、盛り上がるけど熱しきらない終楽章と続き、終演後はその完璧な演奏に盛大な拍手を送ったものの、会場の熱気とは違うちょっと醒めた感覚を感じてしまいました。

 


演奏はとにかく“すごい!”の一言。これが日本を代表するトップオーケストラの実力なのですね。毎回、読響の大阪定期を聴くたびに首都東京と地方都市大阪の音楽格差を思い知らされます。3楽章のCorno Obbligatoで前後半2度(練習番号1028直前のところ)吹き鳴らされるフォルテシモを、まったく臆することなくこれほどまでに猛烈に吹き通せるホルン奏者が日本にどれだけいるのでしょう。鳴らしやすい音域なのだとしても、まったく同じ音色のままクレッシエンドしていってフェスティバルホールの巨大な音空間を震わせてしまう。こんな演奏、地方では絶対に聞くことができない。    

 


なお、前半のリストは最も聴くことを意識的に避けてきた大の苦手作曲家の作品にして初めて耳にした曲。残念ながら、私の感性にリストは合いません。


読売交響楽団_第14回


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