201889日 ウエスト・サイド物語 佐渡裕指揮シネマティック・フルオーケストラ・コンサート

 

バーンスタイン生誕100周年記念

佐渡裕指揮 ウエスト・サイド物語

シネマティック・フルオーケストラ・コンサート

 

フェスティバル・ホール

3階123

 

指揮: 佐渡 裕

東京フィルハーモニー交響楽団

 

昨今、新旧の様々な映像作品のシネマコンサートが話題だけど、恐らく2012年の『ウエスト・サイド物語』が口火を切ったのではないのだろうか。前回は大阪会場がオリックス劇場だったこともあり、まったくのスルーだった(東京は、今回と同じ東京国際フォーラム)。今回はフェスティバル・ホールを会場としていること、そしてなによりスクリーンにあわせてフルオーケストラが演奏する“シネマコンサート”なるコンテンツに対する興味が日増しに大きくなっていることもあり、大変楽しみにしていた。当然、選択した席はフルオーケストラを聴くにはベストの席、3階最前列席。ホール音響を楽しむのであれば、もう一つの選択肢として2階の左右バルコニー席があるけど、シネマコンサートに限ってはスクリーンを斜め45度から観る羽目になってしまう。

 

さて、あえて “シネマティック・フルオーケストラ・コンサート”と名乗ったこの公演、どう捕らえようか? この度、巨大スクリーンを通して鑑賞して、改めてミュージカル映画の最高傑作のひとつだと思わずにはいられない。オーケストラによる“序曲”のあと、マンハッタン空撮から始まりウエスト・サイドに暮らす人々の日常、そしてジェット団とシャーク団の対立構造までをダンスとともに見事に描ききった“プロローグ”で、完全に作品の魅力に捉われてしまった。完璧を追求するあまり途中解雇されたジェローム・ロビンズが監督した、そのプロローグでの凝りに凝った撮影時の逸話が、パンプレット内“画面に炸裂する渾身のダンス”の項に詳しく記されている。--因みに、この価格1,000円のパンフレットは非常に読み応えがある。買って良かった。

 

では、売物のフルオーケストラ・コンサートとしてはどうか、と言うと残念ながら、“あ~、こんなもんかぁ” といったところ。弦143管にハープや打楽器奏者6名(たしか)、さらにサックス3本とドラムス、エレキギターまで加えた巨大編成でありながら、とにかく音が飛んでこない。あえてオーケストラを聴くにはベストな3階席最前列に席を取ったのに、こんなにオーケストラの音を貧弱に感じたのは始めて。横に長いステージ背景として置かれた黒い布が音を吸収したこともマイナスだろうし、そもそも演奏自体も縦の線を合わせることのみを求められているわけで、特段に熱気をおびた演奏には聞こえない。昨今のPAが充実したシネコンで映画を観るときのような臨場感にはほど遠い。オーケストラの音量に映画のPAを合わせる必要もあったはず。もしオリジナル音声でシネマ上映をするのであれば、もっとPA音量を上げることも出来ただろう。そういえば、ばんばパークスで観るメット・ライブビューイングなど、実際の歌劇場ではありえないような大音量で、臨場感抜群だ。

 

勿論、映像とのシンクロは見事なもの。例えば、ドクの店でマリアの懇願を請けてやって来たアニタとジェット団との “あざけりのシーン” での音楽など、シーン冒頭のBGMのように流れるジャズバンドのサウンド・トラックからオーケストラの生演奏に切り替わっていくところなど、見事なほどに完璧だっただけに、あえてオーケストラの生演奏を聴く意味を考えてしまう。“生演奏” に勝るものなないだろうって?勿論、おっしゃるとおり。でも聞こえてくる生音が、オーケストラを聴くときの圧倒的な音圧、響きといった迫力を伴っていなかったら、“オリジナルサウンドでいいんじゃないの?” と思ってしまう。ましてや、再現芸術をもって評価されることを生業としているプロ奏者が、毎度定められたテンポや音量を厳格に維持しなければならない作業をわざわざ…とまで思ってしまう。東京は、フェスティバル ホールの2,800人より、さらに大きいキャパ5,000人の東京国際フォーラムでの公演だったらしい。どうだったのだろう。

 

いずれにせよ、名作『ウエスト・サイド物語』を大いに楽しんだのは、間違いない。でも、シネマコンサートなるコンテンツ、今回の経験で十分。

 

 
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