2018年5月8日 東京フィルハーモニー 第907回サントリー定期 歌劇『フィデリオ』演奏会形式
サントリーホール
1階10 列35番
ベートーベン : 歌劇『フィデリオ』 演奏会形式
指 揮 :チョン・ミュンフン
フロレスタン : ベーター・ザイフェルト
レオノーレ : マヌエラ・ウール
ドン・フェルナンド : 小森 輝彦
ドン・ピツァロ : ルカ・ピサローニ
ロッコ : フランツ=ローゼフ・ゼーリヒ
マルツェリーネ : シルヴィア・シュヴァルツ
ヤキーノ : 大槻 孝志
合唱 : 東京オペラシンガーズ
『フィデリオ』って、楽聖ベートーベン唯一のオペラ作品として有名(名前がよく知られている)でありながら、作品自体は耳にする機会がありそうで、なかなか無い。週末に自宅のCDラックを確認したら、15年ほど前に『まっ、いつか聴くでしょ』と買っていたマゼール・ウィーン国立歌劇場とクレンペラー・フィルハーモニアOの全曲セットがどちらも未開封のまま、埃を被ってた。普段は演奏会に先立ってCDで事前に聴いておくことは一切“しない派”だけど、今回だけは、事前に“予習”をしておけばよかったようだ。ミュンフン・東京フィルの実演を聴いても、どうにもピンと来なかった『フィデリオ』も、この週末にマゼールとクレンペラーの両録音を聴いて作品の魅力が多少は判ってきた気がする。
全曲を暗譜で指揮したチョン・ミュンフンの切れ味鋭い指揮姿と、それに応えた東京フィルの演奏がみことだったけど、なにより東京オペラシンガーズがこんなにも達者な団体だとは知らなかった。演奏会形式だとオーケストラ演奏のダイナミズムが際立つ一方で、主役・準主役級とその他歌手の実力差がはっきりとしてしまう。そんな中、第2幕序奏後のベーター・ザイフェルトの“神よ、なんと暗い闇か!”の最初の言葉 Gott! の扱いが、録音で聞くジェームズ・マクラッケン(マゼール盤)やジョン・ヴィッカーズ(クレンペラー盤)の冒頭から張り上げるような歌いっぷりと異なり、苦悶の果てに心の底から搾り出すかのような歌いだしだったのがとても印象的だった。
下手前方席からの“早く演奏しろ!”との叫びは論外にしても、常々ブログに書いているとおり、余分なバイアスを与えてしまう所謂“前説”は、出来れば耳を塞いででも聞きたくない。その意味では幸いなことに作品紹介に徹した単なる“お話”だったにしても、なんとも中性的な俳優の語り口は“これからベートーベンのオペラを!”と気持ちを切り替えていたところには不釣合いだった。
コメント